真(まこと)の名とフラワーエッセンスの植物観察
「真(まこと)の名」
ル=グウィンの『影との戦い ゲド戦記1』を
読まれたことはありますか?
ジブリの映画にもなったこの物語には
「影」のテーマが描かれていますが、
そのなかで「真(まこと)の名」が
重要な意味をもっています。
ここでは「影」については触れませんが、
「真(まこと)の名」について
考えてみたいと思います。
真(まこと)の名を知ること
物語の中に大魔術師オジオンの
次のような言葉があります。
そなた、エボシグサの根や葉や花が四季の移り変わりにつれて、どう変わるか、知っておるかな? それをちゃんと心得て、一目見ただけで、においをかいだだけで、種を見ただけで、すぐにそれがエボシグサかどうか、わかるようにならなくてはいかんぞ。そうなってはじめて、その真(まこと)名を、そのまるごとの存在を知ることができるのだから。用途などより大事なのはそっちのほうよ。(後略)(*1)
これはゲーテ的な自然観察の
アプローチをベースにした
フラワーエッセンスの植物観察に
とても近いスタンスだと思います。
植物の真(まこと)の名と「エッセンス」
大魔術師オジオンは、
植物の真(まこと)名を知ることは、
「根や葉や花が四季の移り変わりにつれて、
どう変わるか」を心得て、
「一目見ただけで、
においをかいだだけで、
種を見ただけで」
すぐにわかるようになることだ
と言っています。
フラワーエッセンスの植物観察は、
植物が1日を通して、
また1年を通して、
どのように姿を変えていくのかを
丹念に観察します。
形や色をそのまま再現してみることで
植物の変化の過程を
心の中で追体験します。
可能な限り植物の存在全体を
経験的に捉えて、
その植物の「エッセンス(本質)」に
触れようとするものです。
植物に対するこのようなかかわり方は
大魔術師オジオンの言葉に相通じます。
フラワーエッセンスの植物観察は、
植物のところに何度も出かけて行って、
植物に真(まこと)名を
教えてもらう作業だと
言っていいかもしれません。
驚き、発見、出会い
植物を観察していると、
「あっ!」とか
「おー!」とか
「そうかー」という瞬間があります。
丹念に観察をすることで、
自分がその植物に抱いていた
勝手なイメージや思い込みが
崩れ去るときです。
それまで知らなかった
植物の姿や自然の不思議に
出会ったときです。
植物が自分にだけ
秘密を明かしてくれたような…
それは自分の頭の中の植物ではなく
現にいま目の前に存在している植物に
出会う瞬間でもあります。
そういう出会いは
とてもうれしくて
楽しくて
新しい自分に出会ったような
気持ちにさえなります。
真(まこと)の名を明かす
『影との戦い ゲド戦記1』の物語の中で
大魔術師オジオンは、
真(まこと)の名を明かすことは
相手が自分を支配するかもしれない危険を
受け入れることだと言っています。
学院の友で正式の魔法使いとなった
カラスノエンドウが
故郷に帰る前にゲドを訪ね、
別れを告げるところがあります。
そのときカラスノエンドウは
自分の真の名をゲドに告げ、
ゲドもまたその名を彼に告げます。
ただの人間でさえ、よほど信頼している人でなければ本名をあかさないのだから、よりあぶない目にあうことの多い魔法使いともなれば、なおさらのことである。人の本名を知る者は、その人の命を掌中にすることになるのだから。それなのに、カラスノエンドウは自分さえ信じられなくなっているゲドに、真の友人だけが与えうるゆるぎない信頼のしるしを贈り物として差し出してくれたのだ。(*2)
真(まこと)の名を交わす
単なる思い込みじゃないの?
と言われればそれまでですが
植物を観察していても
同じようなことを思うことがあります。
植物の真(まこと)の名を知るには、
自分も真(まこと)の名で
対峙しないといけないと。
…というか、
自分が真(まこと)の名で
対峙しているときに
植物は真(まこと)の名を
明かしてくれるのではないかと。
植物が秘密を明かしてくれたように
感じるときに
新しい自分に出会ったような
気持ちになるのは
自分も普段の自分ではなくて、
真(まこと)の名で
いるからなのかもしれません。
このように考えてみると、
フラワーエッセンスの植物観察は、
植物との間で互いの真(まこと)の名を
交わすことかもしれません。
そして、フラワーエッセンスは、
植物との真(まこと)の名の交流の結果
生まれるのではないかと思います。
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*1:アーシュラ・K. ル=グウィン 『影との戦い ゲド戦記1』清水真砂子訳 岩波書店、38p-39p
*2:アーシュラ・K. ル=グウィン 『影との戦い ゲド戦記1』清水真砂子訳 岩波書店、126p-127p
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