聖域で眠る
歴史をずーっと遡ると、古代ギリシャのアスクレピオス神殿では、「インキュベーション」という治療が行われていたといわれています。 incubare は「聖域で眠る」と言う意味です(*1)。
病人は清めの儀式や沐浴をすませた後にクリネー(Kline)で眠ることを許されました。クリネーは寝椅子のこと。現在のクリニック(clinic)の語源ですね。
聖域で眠ることを許された人は、眠っている間に見る夢によって治療されました。夢が正しければ目覚めたときにすでに治癒していたといわれます。
治療は神に委ねられていたわけですね。人間の医師の仕事は癒しの神が現われるための条件を整えることだったというわけです。 (*2)
もちろん、インキュベーションには深く信仰の力がかかわっているわけですが、癒しの原型(元型)ってこれだろうなと思います。
どうしてこんなことを言うかというと、どんな癒しも治療も最後のところでは「神聖ないのちの力」というか、「内なる癒し手」というか、平たくいうと自然治癒力によるもので、それを直接人間がどうこうできるものではないんじゃないのと思うわけです。
どんなに因果的に説明される体系をもつ療法でも、「癒える」ということが起こるときには最後のところはやっぱり「聖なるもの」がかかわってくるんじゃないかと思います。
「聖域で眠る」、最近そんなことについて考えています。
*1:インキュベーションは普通は卵が孵化して鳥になるまでの期間や、冬に埋もれた種が春になって芽を出すまでの期間を指す言葉。(C. A. マイヤー(秋山さと子訳)『夢の治癒力―古代ギリシャの医学と現代の精神分析』筑摩書房 解説参照)
*2:C. A. マイヤー(秋山さと子訳)『夢の治癒力―古代ギリシャの医学と現代の精神分析』筑摩書房
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