ベランダの鉢に、オトギリソウが咲いています。
咲きはじめるところを写真に撮ったことがあります。
7月4日の夕方5時すぎに見たときには、まだ蕾でした。
翌朝5時55分には、開きかけていました。
6時8分、だいぶん開いていました。

オトギリソウは一日花です。
昼過ぎには閉じてしまい、
いったん閉じた花は、
もう開くことはありません。
蕾を見ると、
萼にも花びらにも、
黒い点と黒い線がたくさん確認できます。
弟を切る草
オトギリソウは、漢字で書くと「弟切草」です。
江戸時代の『和漢三才図会』に、
その名前の由来が載っています。
平安のころ、晴頼という鷹匠がいました。
鷹が傷を負っても、
ある草を使ってすぐに治してしまう。
その草が何かは、誰にも言いませんでした。
けれども弟が、その秘密を人に漏らしてしまった。
怒った晴頼は、弟を斬りました。
葉や花びらにある黒い点は、
そのとき飛び散った血だ——とも言われています。
もっとも、古い書物のほうには、
血が点になったという話までは出てきません。
あとから重なった言い伝えなのだろうと思います。
けれども、点を見ながらその話を聞けば、
たしかにそんな連想が浮かんできても不思議ではありません。
黒い点のつき方は、葉の場所によって違いがあります。

地面にいちばん近い葉には、
面いっぱいに散っています。
縁にも並んでいます。
花に近い葉では、
面も縁もまばらになります。
ヨーロッパでは、光の名前がついた
同じオトギリソウ属に、
ヨーロッパ原産の別の種があります。
セイヨウオトギリソウ。
英語ではセントジョンズワート——聖ヨハネの草です。
洗礼者ヨハネの祝日は6月24日。
夏至のすぐあとです。
そのころに花が咲くことから、
この名前がついたと言われています。
その日に摘まれたものが
もっとも薬効が強いとされていました。
一年でいちばん地上の光が強くなるとき——
それは同時に、ここから光が
減っていくときでもあります。
ヨハネは、あとから来るキリストについて
「あの方は栄え、わたしは衰えねばならない」
と言いました。
キリストの誕生日は冬至のころ。
そこから日は長くなっていきます。
日が短くなっていく側に、
ヨハネの日は置かれています。
日本のオトギリソウは、
京都では夏至より少しあと、
年によって多少のずれはありますが、
6月の終わりから7月のはじめに咲きはじめます。
そのあとは蕾を次々に開いて、
夏のあいだ咲き続けます。

FESのフラワーエッセンスになっているのは、
セイヨウオトギリソウです。
日本に自生しているオトギリソウと
同じ属ですが、別の種です。
葉に違いがあります。
セイヨウオトギリソウの葉を光に透かすと、
小さな穴が開いているように見える点があります。
学名の perforatum——「穴が開いた」——は、
そこから来ています。
育てているオトギリソウの葉には、
それがありません。
黒い点はありますが、
光の透ける穴はありません。
属の名前のほうは、ヒペリクムといいます。
ギリシャ語の「上に」と「絵」から
できた名前です。
災いを避けるために、
この花を肖像画の上に置いたことから
来ていると言われています。
赤くなる浸出油
セイヨウオトギリソウの花を油に漬けて置いておくと、
だんだん深い赤に変わります。
ヨーロッパでは、この赤い油を
キリストの血とも、聖ヨハネの血とも呼びました。
日本のオトギリソウも、
すりつぶすと赤紫の汁が出ます。
セイヨウオトギリソウの赤いハーバルオイルは、
傷の手当てに使われてきました。
オトギリソウを、鷹匠が、
鷹の傷の手当てに使っていたという話が
思い起こされます。
光をめぐらせるエッセンス
FESのセントジョンズワートのエッセンスは、
花を湧き水に浮かべて
太陽の光に当ててつくられます。
セントジョンズワートという名前は、
もしかしたら、サプリメントとして
目にしたことがあるかもしれません。
うつに使われるハーブとして知られていて、
軽いうつから中程度のものには
効果があるという研究もあります。
では、セントジョンズワートのフラワーエッセンスは、
どのような効果があるのでしょうか。
セントジョンズワートのエッセンスは、
意識が広がりすぎて、
感受性が強くなりすぎているとき、
夢のような状態に、
意識が開きすぎてしまうとき、
そういうときの守りとして
はたらいてくれます。
『フラワーエッセンス・レパートリー』には、
このエッセンスを
「通常、光に過敏な人に適用する」
と書かれています。
そして、そのすぐあとに、
逆に光が足りていない人にも使える、
とも書かれています。
一番深いところでの
はたらきについては、
「魂が身体を通して光を循環させ、
大地に流すのを促す」。
内面の光を、物質世界に根を張るために使い、
広がり過ぎた意識に、
明晰な強さをもたらす助けとなる
フラワーエッセンスです。
植物と人の心

ベランダの鉢のオトギリソウは、
いまも咲いています。
蕾もまだたくさんあるので、
もうしばらくは黄色い花を
見せてくれると思います。
まったく同じ種の植物ではありませんが、
同じ属の姿かたちのよく似た植物に対して、
日本では、薬効の秘密を漏らした弟を切る
という物語が重なり、
それが「血」と結びつきました。
ヨーロッパでは、
花の咲く時期から、
聖ヨハネという
「光」と強い結びつきのある存在とつながり、
ハーバルオイルの色から
「血」と結びついています。
どちらも、人がこの植物に触れて、
どのような内的な経験をしたかということが、
反映されているのだと思います。
遠く離れたふたつの土地の人々が、
同じ植物に血を見ていたことは、
とても興味深いですね。
明日の朝、オトギリソウの花は、
いくつ咲いているか楽しみです。
■ 参考文献
・寺島良安『和漢三才図会』正徳2年(1712年)
・日本薬学会「オトギリソウ」(高松智・磯田進)
・横浜薬科大学 薬草園「Herb Letter」No.60(2013年)
・株式会社ウチダ和漢薬「和漢薬」No.334
・J. アディソン(樋口康夫・生田省悟訳)『花を愉しむ辞典』八坂書房、2002年
・『聖書』ヨハネによる福音書
・パトリシア・カミンスキ、リチャード・キャッツ『フラワーエッセンス・レパートリー』BABジャパン、2001年
・Richard Katz, “St John’s Wort: Herb of the Light”, Flower Essence Society
・”St. John’s Wort”, Plant Studies, Flower Essence Society
・Christopher Hobbs, “St. John’s Wort: Ancient Herbal Protector”
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