ベランダの鉢に、キンミズヒキが咲いています。
8月の終わりから咲きはじめて、9月の半ばを過ぎても、まだ咲いています。
細い茎の先に、黄色い小さな花が穂になって並びます。
一本の穂の上に、異なる段階の花が並んでいるのが分かります。
いちばん上は、緑の萼に包まれた蕾。
その下には、開いたばかりの花。
さらに下には、雄しべが縮んで閉じ始めたもの。
下から上へと順に咲いていきます。
一つの花穂を見ることで、花の咲く前と後の姿も見ることができます。

キンミズヒキは日本に自生しますが、ヨーロッパに自生する仲間のセイヨウキンミズヒキが、バッチのフラワーエッセンスのアグリモニーです。
花のつくり
ひとつの花を、近くで見てみます。
黄色い花びらが5枚。
花弁の内側には、細い雄しべが十数本、放射状に伸びて、先端の葯(やく)は濃い黄色です。
中心には雄しべよりも白っぽい色の雌しべが2本あります。


上の写真ではわかりにくいですが、キンミズヒキの花のつくりは、花の基部(花托:かたく)が杯状になっていて、花びらの付け根は、萼と雄しべの付け根といっしょに合わさって、その杯、花托筒(かたくとう)につながっています。子房はその花托筒に囲われています。
キンミズヒキはバラ科植物ですが、この花のつくりは、バラの花と同じです。
まだ開いていない蕾(下の写真)を見てください。

蕾の外側の周囲に、白い毛のようなものがたくさん並んでいます。
これが花が終わったあとに、重要なはたらきをします。
金色の水引
キンミズヒキは、漢字で書くと「金水引」です。
細長い黄色の花穂を、金色の水引に見立てた名前だと言われています。

水引は、贈り物にかける紅白の紐のこと。
色をつけた水に浸し、引きながら染めた工程から「水引」と呼ばれるようになった、とも言われています。
その名前のついた植物は、キンミズヒキとは別にあります。
ミズヒキです。

細い穂に、赤い小さな花がまばらに並びます。

近くで見ると、花弁の外側が赤、内側が白。
紅白です。
ミズヒキはタデ科の植物で、キンミズヒキはバラ科なので、
名前は似ていますが、植物としては遠い関係です。
くっついて運ばれる種
キンミズヒキの花が終わると、萼筒が固くなります。
そして、蕾のときに周囲にたくさんあった毛の先端が——

鉤(かぎ)状になります。
花托筒のまわりを輪になって取り巻き、先端がくるりと曲がって、赤茶色に色づきます。
上の列は立ち上がり、下の列は90度近くまで開いています。
服についてくる、あのくっつき虫です。
この鉤は、副萼(ふくがく)——萼の外側に、もうひとつ現れる萼状のもの——が変化したものと言われています。
地方によっては、ヌストグサ、サシグサという呼び名もあるようです。
これはまったく偶然だと思いますが、
ミズヒキも、果実がくっつき虫になります。
くっつく仕組みはまったく違って、
ミズヒキのほうは、花が終わったあとに残った花柱が鉤になります。
植物としては似ていないのですが、
名前が似ていて、どちらも果実がくっつき虫になるというのは、
おもしろいですね。
鶴が落とした草
キンミズヒキには、仙鶴草(せんかくそう)という中国での名前があります。
この名前にはこんな逸話が伝わっています。
2人の書生が、科挙の試験を受けに旅をしていました。
荒野にさしかかったところで、1人が激しい鼻血を出して止まらなくなります。
土で押さえても、紙を詰めても効きません。
困り果てていると、1羽の鶴が空から降りてきて、頭上を通り過ぎました。
そのとき鶴の口から、1本の小さな草が2人の前に落ちたのだそうです。
書生がそれを噛むと、まもなく鼻血が止まりました。
のちに試験に合格した2人は、鶴に救われた恩に感謝して、この草を仙鶴草と名づけた——。
出典のはっきりした古典があるわけではなく、広く語られている話です。
キンミズヒキは、日本でも中国でも、民間薬として使われてきた歴史があります。
日本では下痢止めとして知られ、うがい薬や湿布にも使われたと言われています。
中国では、仙鶴草の名のとおり、
出血を止める薬として扱われてきました。
鼻血、喀血、吐血、血尿、血便。
体のあちこちからの出血に、煎じて飲む形で用いられます。
この植物は、タンニンを多く含みます。
タンニンはタンパク質と結びついて、組織の表面を引き締める働きをします。
止血も、下痢止めも、うがいも、湿布も。
どれも「表面を引き締める」というひとつの働きが、作用する部位を変えたと考えることができます。
バッチが4番目につくった花
キンミズヒキの学名は Agrimonia pilosa var. japonica といいます。
アグリモニーのフラワーエッセンスがつくられるのは、ヨーロッパのセイヨウキンミズヒキ(Agrimonia eupatoria)で、同じ属の別の植物です。
けれども、花の姿も、花托筒のまわりの鉤も、同じつくりをしています。
エドワード・バッチがアグリモニーのエッセンスをつくったのは、38種のうち4番目のことでした。
最初の3つは、1928年9月、ウェールズでつくられています。
インパチェンス、クレマティス、ミムルス。
そのあとに、アグリモニーが続きます。
この4つを、種がどうやって広がっていくかという点で見てみると、おもしろいことに気づきます。
インパチェンスは、熟した実に少し触れるだけで、はじけて種を飛ばします。
属名の Impatiens には「我慢できない」という意味があります。
クレマティスの種には、羽毛のような毛がついています。
風に乗って、飛んでいきます。
ミムルスは、流れる水のそばに育つ植物です。
水の中に種を落とします。
そしてアグリモニーは、鉤で動物や人間にくっついて、運んでもらいます。
自分ではじき飛ばす。
風にのせる。
水に落とす。
生きものにくっつく。
アグリモニーは太陽法でつくられましたが、
太陽法が開発されるまでは、
ホメオパシーの手法で種からエッセンスがつくられていたことを考えると、
この4つの違いは非常に興味深いです。
こうして見てくると、
ベランダの鉢の小さな黄色い花が、
蕾のころから鉤を準備していることは、
キンミズヒキの仕草の特別な個性だということに
改めて思い至ります。
野山を歩いたあとで、服に小さな実がついていたら、
それは旅の途中の種なのかもしれません。
このシリーズの前の記事:弟を切る草と、光の聖人の草——オトギリソウとセントジョンズワート
参考文献
- ジュリアン・バーナード『写真でたどるバッチフラワー 内なるエッセンス』飯島真奈美訳・フレグランスジャーナル社
- ジュリアン・バーナード『バッチのフラワーレメディー 植物のかたちとはたらき』
- 筑波大学 生物学類「キンミズヒキ」
- 東京都植物多様性センター
- キンミズヒキ|公益社団法人東京生薬協会 https://www.tokyo-shoyaku.com/ohana.php?hana=541
- 仙鶴草(せんかくそう)|漢方薬の桃華堂 https://k-tokado.com/shoyaku/senkakuso
- Agrimonia pilosa: A Phytochemical and Pharmacological Review(PMC9076299) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9076299/
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